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森の学校へ

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〇丹波篠山の自然

その存在を初めて知ったのは2002年公開の映画『森の学校
西垣吉春監督から連絡が入った。
「嵯峨小学校で上映会をするから、観に来て」と。

西垣監督は私が撮影所に入った当初からご指導いただいた方で
近所に住んでいることもあり、ずっと交流がある。
監督はふるさとの丹波篠山を愛しておられて
同郷で、霊長類学の世界的権威・河合雅雄氏
自伝的小説『少年動物誌』を原作に
念願の映画制作が叶ったという。

ちなみに河合雅雄氏の弟には
文化庁長官となった河合隼雄氏がいる。

会場の嵯峨小学校体育館は暗幕が張られ
映画館と化していた。
国の省庁が選定・推薦された作品なので
日本中の学校を上映会が出張でまわった。
子どもたちも親と一緒に大勢集まり
急仕立ての映画館で椅子に腰かけて上映を待っていた。
西垣監督をはじめ、近隣に住む撮影所関係者も観に来られていた。
私は東映太秦映画村の専務の隣に座って鑑賞した。

丹波篠山の大自然の中で
子どもたちが生き生きと成長していく姿を描いた
とても上質な作品で感動を覚えた。
「こうした純粋で心豊かな作品こそ、世界中の多くの人に観てほしい」
と思った。



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〇映画の子役-三浦春馬くん

その映画で、幼き日の河合雅雄少年を演じたのが
当時12歳の三浦春馬くんだった。
瑞々しい子どもの感性が、清らかな瞳からあふれていて
演技をしているように見えなかった。
まるで、地元の子どもをそのまま撮った
ドキュメンタリー映像のように想えた。
彼の名前が私の脳裏に刻まれた瞬間であった。

その後も西垣監督の依頼で仕事を通して
河合雅雄先生にもお会いした。
「丹波篠山へ遊びにいらっしゃい」
とやさしくお声をかけてくださった。

名産の丹波栗、丹波の黒豆、丹波松茸と美味しいものが多く
コウノトリでも有名な、自然豊かな土壌で育まれた
知識人を多く輩出している。

数年経って、京都国際映画祭で西垣監督と談笑した。
「春馬がすっかり有名になり、いい役者になった」
と手放しで喜ぶ監督。
続けて言った。
「映画制作にはお金がかかるけれど、今度作れたなら
 また春馬に主役で来てもらって撮りたいなぁ。
 来てくれるかな? あんなに売れてしまったから」



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〇直虎の初恋の人

「私は大河ドラマ『おんな城主直虎』にすっかりはまっていて
 直虎の初恋の人・亀の役の春馬くんを見て驚きました。
 子役時代から知っているので、美少年になり
 今ではすっかり大人の立派な男性へと短期間で変貌した印象です」

NHKのサイトで見つけて思わず保存した画像は
主役のお三方が、それぞれの子役と並んで
撮影の合間に撮ったスナップだった。
子役が皆、雰囲気までよく似ていて
実に完成度の高い作品だった。

春馬くんも子役からの役者人生だから
一層、彼らを大切にしている感じがあふれていた。



〇神様に近い人

彼の訃報を聞いた時、まず思ったのが
「もったいない」ということだった。
あれほどの才能に恵まれた方が
なんともったいないことか…

フジテレビが西垣監督に取材をされていた。
「本番になると集中力が一気に増す、天性のものを持っていました」
と語られた。
私は西垣監督にまだ、電話すらできないでいる。

発売予定の新曲のMVを観た。
とにかく、美しい。
魂を映像に焼きつけている。
美し過ぎる。
この世のものとは思えない美しさと完璧さ。
神様がスカウトに来てしまったに違いない。

才能に恵まれた春馬くんだが
ものすごい努力の上に積み重ねた技術でもあったのだろう。
舞台でも煌めいて、注目を一身に浴びて、人々を魅了する。
一瞬たりとも目をそらさずにはいられないほど
指先まで神経の行き渡った表現。

写真集を作ったら、サイン会に1000人が並んだという
過去の取材映像を観た。
彼は戸惑ったような表情を浮かべて、こう語った。
「自分は写真を撮られるのがあまり好きではなくて
 どうして僕の写真をこんなに見たがる人がいるのか不思議で仕方ないのですが…
 来てくださった方にはありがたく思います」

そしていつもの真摯な態度で、一人ひとりに丁寧に接して
写真集を手渡していた。
握手しながら、クシャッとしたあの最高の笑顔で。

それを見て、私が勝手に感じたことだが
彼はこれほどの魅力と才能がありながら
実は、「ひっそりと静かに暮らしたい人」だったのではないだろうか
と思った。
『森の学校』の子どもたちのように
大自然に抱かれて、伸び伸びと大らかに自由に…

誰もが憧れるスターの要素を持ち、完成された美を追求する
真面目さ、誠実さ、一生懸命さで高みに上っていく。
その成功が、彼にとって本当に望んだ
最良の環境だったのか?と。

お釈迦様はこう語る。
「熟した果実は早く落ちる」

人としても役者としても完成されてしまったのだろうか。
あまりにも素晴らしい人だから
「もういいよ、そんな穢い世界で修行することはないよ」
と天に引き上げられたのか。
きっと、めくるめくような麗しい世界が彼の目には見えていたのだろう。
清らかな心に適った、真の世界が。

悲しいけれど、私はこう考える。
人には決められた「寿命」というものがある。
それが突然、やってきてしまった
お迎えが現れたのだと。

30歳という若さを惜しむ人も多いが
永遠に若く美しい姿のまま、人々の脳裏に焼きつくことは
素適なことでもある。
それは彼の心そのものだから。
子役の頃から変わっていない、瑞々しい輝き。
キラキラした瞳。
永遠に失うことの無かった純真さ。
それを必死で守ったのだろう。

彼の魂は春の草原を自由に駆ける馬となって
ようやく解き放たれた
森の学校へ。


※関連記事→映画『森の学校』/西垣吉春監督



   


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