映画『森の学校』/西垣吉春監督

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〇ようやくかけた電話

快晴の日曜日
そろそろ年賀状の準備をしなければ…
と思い立ち、新年にいただいた賀状を整理していたところ
映画監督の西垣吉春氏の一枚を見つけた。
三浦春馬さん(当時12歳)の出演映画『森の学校』の監督である。

西垣監督とは私が撮影所に入った当初からご指導いただき
映画祭で会ったり、その他の仕事でもお世話になり
ご近所に住んでいることもあって
ずっと交流が続いている。

この夏の悲しい知らせに胸を痛めながら
私はずっと、監督に電話できずにいた。
しかし、数日前に『森の学校』が
12月に上映されるとニュースで知ったこともあり
「今、かけよう」
とすぐに電話した。

「西垣監督ですか?」
「はい」
私が名前を名乗ると、監督はホッとしたような声で
「あぁ~!」
と明るく答えた。




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〇名作『森の学校』

監督のふるさと丹波篠山を舞台にした映画『森の学校』は
同郷で、霊長類学の世界的権威・河合雅雄先生
自伝的小説『少年動物誌』を原作として制作された。
2002年公開。

「あの時は嵯峨小学校の体育館に暗幕を張った
 急仕立ての映画館で
 小学生やお母さんたちと一緒に観ましたね」
と私が懐かしく思い出すと、監督は
「そうそう、風が吹けば飛ぶようなね」
と笑った。
心洗われる上質な映画。



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〇西垣吉春監督

「あの作品を拝見して、私は驚きました。
 西垣監督って、こんなに純粋な方だったんだ!と」
「まじめな方なんですね、と言われるけど、そうでもないよ。
 いつも言ってるように
 汚いことも知ってるからこそ、きれいなこともわかるでしょ」

「この世はすべて相対、片方だけでは存在し得ない。
 お釈迦様の教えですよね」

映画『森の学校』は西垣監督が自ら資金集めをして
心を込めて制作されたもの。
フィルム撮影であり、DVDになっていないため
春馬さんファンには「まぼろしの作品」と呼ばれている。
当時、小学校や公民館などで手づくりの上映会が
地道にコツコツと催されてきた。

あくまでも、スクリーンでの上映にこだわる。
「昔人間なんや・・・」
とつぶやく。
それは監督が如何に、この作品に魂を込め
大事に大事に温めてきたかということに尽きる。

西垣監督は言う。
「DVDにしたらいいのにという人もいるけれど
 僕は映画館のあの大きなスクリーンで見てほしいから
 今回、ドリパスで上映が決まって
 あれは東宝さんがやっているんだけれど
 隠れた名作を発掘するという主旨で・・・
 その環境で見てもらえることがうれしいんだ」


ところが、アクセスが集中し
ドリパスのサーバーがダウンして
チケットを購入できずにいた人が多かったため
TOHOシネマズの映画館サイトでも発券するように
観たい人がチケットを買えるように仕組みを相談しているという。

上映場所や上映回数が増え
より多くの方が観られる環境を強く望む。

ただ、作品が発掘されるきっかけとなったのが
悲しい出来事だっただけに
上映にあたっては、監督も色々と考えたそうだ。
私はこう言った。
「小学生の春馬くんが地元を遠く離れた丹波篠山でロケをして
 一生懸命がんばった素晴らしい作品ですから
 彼がこの世に残してくれた置き土産ですし
 映画の出演に大抜擢してくださった
 監督への恩返しにも想えるのです」

西垣監督いはく
「あの作品は、とにかく河合雅雄先生の原作がいいので
 フィルムを大切に保管してきたんだよ。
 上映には東京のIMAGICAでデジタル化したものを
 チェックするためにまもなく上京する」


現在のシネマコンプレックスでは
デジタルでなければ、上映にかけることができない。
そのため、フィルムからデジタル化することが必須。
テレビ放映で多くの人に観てほしいけれど
そうなるとコピーされて、本編が荒れる恐れも出て来る。
やはり、映画はスクリーンで観るに限る。

西垣監督は尊崇の念を抱く河合雅雄先生に
この度の上映決定の経緯を話すため
昨日、会いに行ったそうだ。
「森嘉の豆腐とおあげ持って」
「最高ですね、喜ばれたでしょう」

春馬くんの演じた河合雅雄先生は
大正13年生まれ
「96歳だよ!」

新年が明けたら、すぐ97歳。ご健在である。

「昭和10年の丹波篠山という設定で撮った作品なんだけれど
 今の風景もなんら変わらないんだよ、そのままにある」


里山で育った子どもたち
丹波栗、丹波の黒豆、丹波松茸・・・ 
自然の豊かな恵みをいただいて
河合雅雄先生や、のちに文化庁長官となった弟の
河合隼雄先生が輩出された土地。
人が自然と共にあることの大切さを思い知る。

コロナ禍の今だからこそ、観てほしい作品でもある。
もちろん、三浦春馬という傑出した俳優の
原石の輝きも。



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〇宝物

西垣監督が最近、一番うれしかったのは
『森の学校』を観た人が発したひと言。

久しぶりに撮影所の作品を観たなぁ~!

どんな時代で、どんな出来事に見舞われたとしても
本物を作ってさえいれば、いつか必ず発掘されて
日の目を見る。
それがどんな理由であったとしても
これは作品の力であり、宿命。
「観たい」と切望する人がいてくださるからこそ
監督が大切に大切に守ってきた宝物が
再び、世に出る。

「やはり、まっすぐにまじめに懸命に
 真摯に取り組んだものは
 神・仏が見つけてくださるのですね」
と私は言った。続けて

「子どもなんて、1年もすればあっという間に成長して
 大きくなってしまうのに、映画ってすごいですよね。
 その時点で止まっている。
 12歳の春馬くんがそこにいて
 走ったり、笑ったり、泣いたり、ケンカしたりしているのですから。
 映画はタイムカプセルですね」

「春馬くんは天馬となって
 あの森の学校へ駆けて行ったように想われるのです」

監督は答えた。
「明日、京都新聞の取材が入っているんだけれど
 僕の代わりに答えてほしいわ」


「また落ち着きましたら、近所でお茶でもしましょう」
と私が言うと、驚いたように監督
「えっ?お茶だけ?」
「???」
「ごはん食べよう!」

「上京、どうかお気をつけて。
 この作品を観たい人皆が観られますように
 監督、がんばって来てくださいね、応援しています」

西垣監督はほぉ~っという深い呼吸をされてから
最後にこう言った。
「あ~、元気出るわ」

春馬くんに、吉春監督
ふたりは「春」という一字で結ばれてもいた。
男性の名前に「春」があると
なんだかやさしく温かく感じられる。
 


・過去の記事より→『森の学校へ

・「ぐるり!丹波篠山」より


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